民家(九)

 屋根は、雨や風そして強い光など過酷な条件をそのまま受けながら、人々の創意工夫によって、その風土に似合った美しい姿に完成してきました。
 
 屋根にはさまざまな形がありますが、基本になるのは1切妻造り、2寄棟造りです。さらに切妻の周囲に庇をさしかけた、3入母屋造り等あります。
 屋根は、その形や屋根葺材料等に関係して、地方毎に様々に変化し、家の外観を大きく特徴づけております。又、草屋根と板屋根等では、勾配・形状においてその違いがはっきりします。
 
 勾配は草屋根は急であり、板屋根等は緩勾配になります。草屋根は、単純な短形の寄棟。東北のL形の曲屋。切り妻では奈良の大和棟。白川の合掌造等。又、板屋根では、信州の妻を正面にしている本棟造。桁側を正面にしている高山周辺の民家などその形態の違いを数えればきりがありません。
 
 雨の多い日本にあっては、屋根の役目は特に重大です。しかし屋根は実用面だけでなくいえの印象を大きく左右するものです。それ故に、印象を良くすべく、形をととのえ、装いをほどこして、美しさを表現しています。特に屋根の棟は実用的にも意匠的にもその要です。瓦屋根の鬼瓦。本棟造りの雀おどり等の例でおわかりでしょう。又、奈良の大和棟のうだつは防火を兼ねて、草屋根の側面を装っています。
 
 京都の町屋は、屋根の流れが直線でなく少しふくらんでいるのに気づきます。又、茅葺屋根にも屋根面がわずかにふくらんだものを多く見かけます。この様な屋根は起り屋根と呼ばれます。起り屋根のわずかな曲りが直線にない柔らか味を持たせ優しくて、上品な雰囲気をかもし出します。屋根面を流れる雨水の量は棟より軒先ほど雨の量が大きくなります。これに対して、起り屋根は、棟から軒先に向かって順次急勾配になっているため、水はけがよくて合理的だとも申せましょう。
 起り屋根とは逆に、途中を少しくぼませ、軒先をはね上がらせる方法は、照りといいます。照りの屋根は寺院に使われます。華やかさと威厳とを兼ね備えているからでしょう。
 
 何気なく見える屋根にも、細かい配慮がなされ、実用と美しさの両面を満足させるためになされた古人の優しい心配りが感じ取れます。

降幡廣信

 
 

【現代の住まいを考える】【009】 民家(九)
信濃毎日新聞掲載のコラムをご覧頂けます。
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