真行草

激しい夕立が続き、夜は涼しく過ごせる信州安曇野です。土曜日からは非常に暑くなるようなので、束の間の休息です。さて、日本の伝統文化についてのコラムをご紹介します。
 
新行草11

 日本の文化の中にある格式の表現に、真・行・草という三つの段階が用いられてきました。
 書道の例をみても、楷書・行書・草書という風に、基本になる楷書から行書・草書と、形をくずしながら簡素化され、格式が薄れていく姿を知ります。
 和室の「床の間」においては、楷書に相当する厳格さをもった「本床。」それを基準にして、簡略化し、又数敷奇屋の好みが入るなどして、行の「床」や草の「床」ができ上って
います。
 一般の住宅にも、真・行・草・さまざまの好みの住宅が造られてまいりました。
 又、ここの住宅の内部にも真・行・草の場が存在しているのです。それらがバランス良く配置されていることが、住宅に秩序を持たせ、気持ちの良い生活ができることになるのです。
 それは、真・行・草を、客間・居間・寝室としても良いでしょう。又客間、玄関応接、居間個室と設定しても結構でしょう。
 真・行・草の内容をみると、基本になる楷書にはくずすことの出来ない厳格さがあるのです。くずしてしまえば最早楷書ではなくなってしまうのです。
行・草と移る中で、その厳格さは薄れ、その代りに自由さが入って省略された延び延びとしたものに変ります。そして、楷書の基本があって、はじめて行の軽妙さが生かされ草の自由さも生きるのです。逆に楷書の厳格さも草・行によって際立つことになるのでしょう。
 服装の礼装・訪問着・普段着というのにも、格式のランクがみられます。個人の自由な好みの入る余地のない礼装から、思い思いの創意工夫が生かされる自由さをもった普段着。
 書道・服装の例をみても真・行・草のあることが、それぞれをどんなにか美しく、又深みを持たせ、生活を豊かにしているか知れません。しかも、自由さのあるランク程その個性が生かされ、個人の感覚が表現されるのです。自由なもの程ないがしろに出来ない理由もこゝにあるのです。

 

降幡廣信

 
 

【住まい再考】
信濃毎日新聞掲載の過去のコラムです。