民家に入って、土間に立つ大黒柱と差鴨居の力強い構成、又、部屋に入ったときの太い差鴨居は、意匠の見せ場であるばかりでなく、民家の家格をどんなに高めているか計り知れません。一般の鴨居は、建具がたてられさえすれば十分ですから薄鴨居が使われます。薄鴨居は柱間が長くなれば中央が垂れ下がり、建具の建てつけが悪くなる。そのため中間を吊束と云うもので吊り上げているのです。
差鴨居は、薄鴨居とは趣を異にした部材なのです。古い民家では、外回りにも部屋境にも柱が一間ごとに立っています。柱を密に立てれば建物の構造も強固になるからです。しかし、柱が密に立てば立つ程空間がせばめられることになります。
時代が進んで、生活面の要求から二間続きの部屋を造るため、又は部屋を開放的に使用しようとするために、中央の柱を撤去することになったのです。この時、差鴨居は、撤去される柱の荷重を受ける梁の役割と同時に、構造的に強化しながら建具のための鴨居の役割をも負わされることになったのでした。
民家の差鴨居は、密な柱を省略して、広い開口部を設けるために必要欠くべからざるものなのです。しかも、大変人目につき易い場所にあって、構造材としてのたくましさと、造作材としての美しさを兼ね備える必要がありました。そのため、後になると、材質が吟味され、欅材などが使われてその効果を挙げている場合がでてくるのです。
差鴨居は、地方によって指物とか長物とも呼ばれています。指物と呼ばれたり差鴨居と呼ばれる理由は、構造材であるために、柱に強固に組み立てる必要があって、差鴨居の両端とも柱に枘差とされたからだと言われています。だから建物の軸組を組立てると同時に建てこまれねばならないのです。
ご存知のように、薄鴨居は軸部ができてから取りつけられるものです。
後日、改造によって差鴨居を入れる場合は枘差にすることはできないことから、差鴨居本来の役割は果たし得ないことになります。差鴨居と薄鴨居の違いがわかります。現代の住宅に差かもいのたくましさ、おおらかさが生かせたら、その雰囲気はどんなに味わい深いものに変るかしれません。
降幡廣信
【現代の住まいを考える】【007】 差鴨居
信濃毎日新聞掲載のコラムをご覧頂けます。
コチラの記事は過去のものです。