肌寒くなってきましたね。夏の暑さが懐かしく、まだ緑の残る山肌も山頂付近は色づき始めた信州から、夏の日差しに関するコラムです。

夏は簾の季節です。
日本の夏は、日射しが強く、蒸し暑いのが特徴であり大きな欠点です。昔の人達はその暑さをしのぐのに、様々の知恵をはたらかせ生活に取り入れてきました。簾をみてその思いを今深くいたします。
夏の簾には日本の気候、風土にあった実用と、単純な仕掛けによる美との見事な調和があって、夏の日本の生活をどんなに美しいものにしているかしれません。涼しくなって、簾をはずしながら夏をしみじみ振り返ることも簾ならではの思い出です。
簾は葭や細く割った竹を編んだものを、窓や出入口などの開口部に掛けます。外部の軒に掛けるものを日除け簾、室内の鴨居に垂れ下げるものを座敷簾といいます。外部のものは日除けや目隠しのためでしょうし、室内のものは間仕切り用ということでしょう。
このように、簾が日除け、目隠し、間仕切りとして優れ、日本の夏に適しているのは、○風通しがきく、○軽くて扱い易い、○不要の時は巻き上げて生活空間や視界を広げることができることです。しかもそこに軽やかで涼しげな風情漂うのがとても素晴らしいことだと思います。
室内にあっては、日除け簾を掛けると、他処からの目隠しになるため硝子戸を安心して開け放つことができます。そして家に入るはずの空からの強い光をカットして部屋を涼しくし、しかも落ちついた雰囲気にしてくれます。そして簾越しに見る外の風景に夏ならではの魅力を添えてくれるのです。
又、外からは、夏の家の概観に涼感と美感とを添えてくれるというふうに、うちわと共に簾は、クーラーとは一味違った日本の夏の生活の主役ではないでしょうか。
簾の歴史は古く、平安朝の寝殿造りまで、さかのぼります。当時、貴族は夏冬を問わず間仕切りとして御簾を用いていたのです。これからの夏、簾の涼しさ、美しさで、暑さを和らげ、心豊かな生活を味わいたいものです。
降幡廣信
【住まい再考】
信濃毎日新聞掲載の過去のコラムです。