屋根 軒(庇)

住まい再考2
 
日本の文化の中心である北緯35°前後というのは、西欧の文化国家と比較すると大変に南に位置しています。その戦場は非常に日射しが強く、雨のないところは砂漠になってしまうように夏はひどく暑いところなのです。
その上日本は、雨が非常に多いというやっかいな特徴を持っています。わが国に年間降る雨を辞表にたくわえたとしたら、日本全国一七五〇ミリの深さに達することになります。雨の少ない松本でも一〇〇〇ミリ以上、東京は一五〇〇ミリで、多いところは四〇〇〇ミリにも達するところがあるのです。それに対して、ロンドンやパリ、モスクワなどは五〇〇ミリ台というからその違いに驚かされます。
その雨も、特に名古屋以東は縦に振らずに斜めに降るというふうに誠にやっかいなものになっています。
 
このような雨を防ぎ、強い陽射しを防ぐ役を果している日本の屋根は、西洋式の平らで軒(庇)のないものとは違っています。日本の屋根は必ず勾配がついていることと、軒(庇)の出が長いということです。こんな一寸したことに大事な仕掛けが隠されているのです。
 
和風住宅の屋根と軒(庇)は、強い陽射しと大量の雨をコントロールする装置が隠されているのです。急勾配の屋根は、何千ミリという雨を何なくさばいてくれるし、屋根の軒(庇)の出ぐあいは、夏は強い陽射しが室内に入り込むのを防いでくれる半面、冬は陽射が充分に室内の置くまで差し込むように設計されているのです。
この深い軒は、壁や建具を雨から守ってくれているから、昨今のような蒸し暑い夏の雨でも、窓を開け放って室内に通風を確保できるのです。又、深い軒の造り出す日陰は、室内をずいぶん涼しくしていることになるのです。
 
長い時の流れの中で研かれてきた先達の知恵を垣間見る思いがします。それにひきかえ、昨今の外国風には、日本の気候風土と調和し得ない見かけばかりが目についてなりません。
 

降幡廣信

 
 

【住まい再考】
信濃毎日新聞掲載の過去のコラムです。