日本人は、靴を脱いで素足になることが好きな人種です。列車に乗っても前席に人がいないと、靴を脱いで足を投げ出します。特に夏、靴を脱いで足を投げだせる気分は格別です。日本人は靴を脱ぐことで、心がくつろぎ、疲れがいやされるのです。ですから場所さえ許せば靴をぬいでしまうのです。
私がパリの一般家庭で、あちらの人が昼寝をしている時、靴をはいたままベッドにごろ寝をしている場面を度々見かけました。
日本人ではとうてい考えられないことです。
これは日本人の生活と彼等の生活の違いであり、靴を脱いだ生活と靴をはいたままの生活の違いから来ているのでしょう。
我々は家へ帰ると先ず最初に靴を脱ぎます。しかし彼等は靴のままの生活なのです。
洋風の生活というのは、ホテルの生活をずっと続けることと同じです。
こうした生活習慣というのは、気候風土と大きな関係があります。
日本は雨が多く、大変に湿気の多い国なのです。特に夏、暑い上に湿気の高いことが日本の生活を西洋と大きく変えているのです。
我々が靴を脱ぎたくなるのも、足に汗をかき湿気をもちやすいため、その足の湿気を抜く必要からでしょう。
又、日本は非常に雨が多いので、外でぬれた履物を家へ持ち込むことのできない事情もあり、靴を脱ぐ生活が続いているのでしょう。
日本の住宅がいくら洋風化しても、様式の住宅になり切れないのは、西洋と風土が違うからです。
日本文化を生んだ、奈良、京都、東京は北緯35°附近であり、西洋文化を生んだ中心となった所は50°前後であることからも、そこに生まれた文化に違いのあることがわかります。
降幡廣信
【住まい再考】
信濃毎日新聞掲載の過去のコラムです。