遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
今回は住宅と庭のお話です。
家を建てるということは、環境を良くしたり、悪くしたりして前の環境を変えてしまっていることは事実であり、又、やむを得ないことでしょう。
若し誰もが家だけを造って、自分の空き地に一本の木も植えないはだかのまゝで、ほってあったとしたら、それはその家だけにとゞまらず、住宅地全体や大きな環境をどんなにか殺風景にしてしまうか知れません。しかしみんなが、狭い庭であっても、家計を無理してまで木を植え、庭を造り育てゝいることは、その家庭にうるおいを与え、生活を豊かにするに留らず、団地全体や環境をどんなにか住み良くし、家造りによって環境を変えたところを補っていけるか計り知れないのです。
このように、家族が楽しめるために作られた庭造りが利己的なものでなく、他の家庭と共に環境をよくする共通の目的をもったものであるということを考えに入れておくべきでしょう。
昔の家には、山や池を配し、深い繁みの広大な庭は珍しくありませんでした。又、専門用語では、”借景”と言って、庭の向うの景色を庭の眺めに取り入れる方法がなされました。しかし昨今では、眺めを取り入れるどころか隣の家をかくしたり、隣の家からの視線をさえぎることが、庭造りの大事な目的にもなっているのです。
今日、日本の生活が便利になったとしても、果して豊かになっただろうかと、庭造りの変ったさまを通して考えさえられるのです。
庭は建物を建てた残りの空地と考えがちですが、建物・庭・塀などは最初から一つの考えの中で計画されねばなりません。敷地が狭ければ狭い程、庭が建物と密接に関係してくるのです。部屋の中から見える庭の景色を考えて、家と庭とを一緒に計画しておくべきでしょう。
又、アプローチの庭造りが、アプローチだけにとゞまらず、家の外観を左右することになります。建物と庭・塀とは一体として考えなければならない理由はこゝにもあるのです。
庭には上下水道・ガスなどの配管や浄化槽が埋められたりします。その上には木が植えられません。庭造りを考えた上で、地中の工事も計画すべきでしょう。
降幡廣信
【住まい ワンポイントシリーズ】家と庭
信濃毎日新聞掲載の過去のコラムです。