食堂

日本の住宅では、居間、客間、茶の間など部屋の名称に「間」という字がついていて、おだやかな感じを与える名前です。これは、禅宗建築の「食堂」からきているからでしょう。
 
従来の日本の住まいの中には、食事とるためだけの部屋はなかったのです。しかし侵食分離の西欧モラルや生活の影響を受けて、日本の住生活は大きく変わってまいりました。特に戦後は、ダイニングキッチン、リビングキッチンと呼ばれる新しい住まい方が行われ、狭い北側に押しやられていた台所も、食堂と共に明るい場所に、広いスペースを持つようになりました。
 
考えてみれば、人間が生命を維持していく上の最も大切な、欠かすことの出来ないことは、食べることと眠ることであり、住まいの中で行われる様々の行為もつきつめればこの二つに集約されるとも考えられるのです。その中で、眠ることは自分一人で済まされる行為ですが、食べるということの中には、家族みんなで、又は来客を交えてというように、違った内容をもつことになります。家庭の食事があったかい家庭をつくる上で、又親しい人間関係をつくる上で大事な行為であり、その場を家庭の中でどのように位置づけるかは、重要な意味をもってくるのです。
 
食事室には、いろいろのタイプがあります。
○ダイニング独立型。台所や居間と区切られた専用の食事室のことです。落ちついた食事ができますが、住宅全体の面積を多く要します。
○リビングダイニング。台所だけを独立させ居間と食事室を一室にまとめたタイプです。必要に応じて食事の場を広げることができます。
○ダイニングキッチン。食事室に台所の作業台を並べたもので、面積の狭い中での侵食分離を実現するため、戦後の日本で生れたものです。
○リビングダイニングキッチン。居間、食事室、台所を一室にしたもので、家の狭さをカバーし、調理、食事、あとかたづけ、団らんの結びつきのよいのが特徴です。

降幡廣信

 
 

【住まい ワンポイントシリーズ】【07】 食堂
信濃毎日新聞掲載の過去のコラムです。