昔の日本の住まいには居間と名づけられた部屋はありませんでした。あえて云えば「茶の間」がそれに近い内容を持った部屋でしょう。
居間は、英語ではリビングルームといって、”生活する部屋”という意味です。
昨今の日本の住まいは、この「居間」を中心として家庭生活がいとなまれていると申せます。家族が集ってくつろいだり、団らんをしたり、さらに家族がさまざまの行為をするための、云わば生活の中心の場でもあるのです。この家庭の中心である「居間」のあり方が、家庭生活を大きく左右することになるのは当然のことです。
「居間」は、家族がそれぞれ違った行動をしながらも、心をゆるして時を過ごし、家族としての触れあいのもてる場であるべきです。
昨今、家庭内の”断絶”が大変な問題となっています。戦後個人の立場が尊重されて、家庭では子供にいたるまで個室が与えられて、個人の場を持つことになりました。しかしそのことが家族をバラバラに分散してしまい、”断絶”をもたらす原因になろうとは誰も考え得なかった事なのです。
だからと云って個人から個室を取り上げることもできなくなった今、家庭内の断絶を救う大事な役割を持っているのが「居間」であり今のあり方とも申せましょう。家族が、何の抵抗もなく自由に集まれて、自由に語り合える場としての居間が、家庭の中心として活用され、家族の心の交流が持たれたならば、断絶はあり得ないからなのです。
さらに「居間」には、接客の場としての機能を持たせたり、食事室を兼ねたり、家事や育児の場として用いることもありますが、それぞれの家庭に合った「居間」造りをしたいものです。
なお「居間」は洋室でなければならないということはありません。
和風のデザインによる椅子式の居間でもよいでしょうし、和室の居間でもよいはずです。ただし、和洋にかゝわらず、客間や応接室にありがちなかた苦しさはさけねばなりません。
降幡廣信
【住まい ワンポイントシリーズ】【06】 居間
信濃毎日新聞掲載の過去のコラムです。