座敷という言葉は、床にまだ畳が敷かれていない板張りのままであった古い時代、床に茵・円座・畳などの座を敷いて客を迎えた部屋からきています。現在用いられている「客間」という原義は明治以降からなのです。
昨今、日本人の住まいは、機能本位の生活を求める中で洋風化の傾向にあります。そこで日本本来の床面に直接座る生活空間が少なくなって、それに代って椅子やベッドによって生活する場所が多くなってきました。この一見便利そうに見える様式の部屋にも、家具がないと生活ができないという不便さと、その家具にしばられて生活しなければならない不自由さもあるのです。寝室にはベッドがなければ寝ることができないとか、ベッドのある部屋を寝室意外に転用ができないのもその一例です。
しかし、日本の座敷には家具にしばられるような不自由さはなく、特に冠婚葬祭の行事や不意の来客には大変な力を発揮するのです。縁側の障子をはずしたり、次の間の襖をはずせば広間に変わり大勢の集りを可能にし、押入れに用意された寝具次第で何人もの来客に対応ができるはずです。さらに客の歓談・食事・就寝さまざまの目的にも使用できるのです。この融通性、転用性が日本の座敷の独特のものです。
座敷にとって、かかせないのは床の間です。座敷の一隅に設けられたわずかな空間、ここに日本人は住まいの中の精神的・美的中心の場を設けたのです。そして、この床の間が設けられていることによって、ただの部屋が座敷に高められることにもなるのです。
座敷は応接室と同じ接客の空間です。しかし応接室で済まされるより、座敷へ通された方が手厚くもてなされた感じがいなめないのも、長い歴史と伝統ある床の間に負うところがありそうです。
たとえ洋風化がさらに進んだとしても、日本人の住まいには、最低一部屋の座敷は必要でありましょう。こゝにある精神的なぐさめと、独特の柔軟性が、その生活に大きなゆとりを与えることになるはずですから。
降幡廣信
【住まい ワンポイントシリーズ】【05】 座敷(客間)
信濃毎日新聞掲載の過去のコラムです。