大黒柱

 柱は屋根、壁、床など、建物の重量を支えている最も重要な部材です。日本の柱は、構造ばかりでなく意匠的にも大変大事な役目を果たしていたために、柱の寸法や、樹種、そして加工等に特別の配慮がなされております。ですからわが国では昔から、家屋の評価が柱によってなされたと云う理由にも一理あったのです。そして、今日も家の柱の重要性に変りはありません。民家を見れば、昔の人々がどんなにか柱を大切に考えて、太いたくましいものに誇りと、信頼感をもっていたかがわかります。これは太い柱が、いかに家を強固にし、耐久性を持っているか知っていたからでしょう。
 
 「大黒柱」
民家の内部空間を民家らしく特徴づけている代表格は垂直の「大黒柱」と水平の差鴨居でありましょう。多くの民家では、家の内部へ立ち入ると、ひときわ太い柱が目に入ります。この「大黒柱」はことごとく、土間と部屋の境に立っています。そして、この場所こそ、「大黒柱」が必要で、又似合う場所なのです。どうしてこの場所に大黒柱が必要なのでしょうか。
 
 古い民家では、外周りにも内部の部屋境にも、一間ごとに柱が立っていました。これは、屋根の重荷を受ける小屋梁のあるところに必ず柱を立てたからです。このように、密に立つ柱によって家の荷重を分担している場合には、特定の柱を太くして荷重を負わせる必要はなかったのです。しかし、時代が変わると共に、生活面の要求から、一間ごとに立っていた柱をやめて、二間続きの部屋を造るとか、開放的に部屋を使う必要があって、邪魔になった柱を取り除くことになったのです。このため、抜かれた柱の荷重が特定の柱に集中することになって、他の柱より太い「大黒柱」が生れることになったのです。
 
 大黒柱には、必要以上と思われる太さの、欅等の堅木類が使用されています。これは差鴨居のような荷重のかゝった太い横材が何方向からも差し込まれ、無理がかゝるため特別の太さが必要であったことと、見栄えのする柱に仕立てて、家格を上げる役を負わせたからなのです。
 

 「大黒柱」は正に民家のかなめです。

降幡廣信

 
 

【現代の住まいを考える】【006】 大黒柱
信濃毎日新聞掲載のコラムをご覧頂けます。
コチラの記事は過去のものです。