民家

民家は、地方の証明書だといわれるくらいに、日本の各地に、特徴ある民家が数多くあります。
 
民家というのは、庶民のための古い家の総称です。神社、仏閣、そして、貴族や支配階級の高級な美材を用いた建物と違って、身近なところにある実用的な木材を最大限に使いながら、生活の知恵を生かして造りあげた手造りの家です。
ですから、風土との深いかかわりの中から生れたため、著しい地方色を持っているのが特徴です。
これらの民家が、百年以上も生きて、なお余力のあるたくましさと、見る人の心をうつ魅力を備えているその現実に、民家の持つ生命力のたくましさを思い知らされるのです。
一方、現代住宅の耐久力や、その魅力を思いうかべ、民家と比較する時に、いかんともしがたい、ひ弱な、はかないものを感じざるを得ません。便利さや、明るさや、流行が優先され、大事な心の問題や家の本質的な問題が、忘れられているためでしょうか。
 
時代のもたらしめるところでありましょうが、民家は、先人の汗と英知の結集により虚飾を廃し、実用に徹しながら、最少の費用で、最大の効果をあげる作り方をしてきました。そこに、職人の建物に対する愛情と住む人に対する真心が生きています。そして、何百年も住んでもらいたいという願望が生き続けているのです。それが耐久力において、また美しさにおいて、時代の流れに左右されない生命力の長さを保つ原因になっていると思います。
 
民家は、冬暖かく、夏涼しく、そして便利であってほしいという現代の要求を満たし得ないうえ、長い年月を経ているために修理費の必要があり、やっかい者に扱われ、寿命のあるものまで取り壊され、次第にその数を少なくしてまいりました。しかし、身体の要求する便利さや、豊かさは、昨今の設計技術や機械力によって、大変、得やすい時代になりました。反面、心にやすらぎを与え、真の心の要求に答えるものは、逆に、得難い時代になったのです。そうした要求に答えるものが古い民家のむだにもみえる空間に潜んでいるのです。
 
かように大事な文化遺産である民家を居間見直す時が来ています。

 

降幡廣信

 
 

【住まい ワンポイントシリーズ】民家
信濃毎日新聞掲載の過去のコラムです。