和風と洋風

長い歴史の中で育った和風住宅には、日本の気候・風土の中での、日本人の生活の知恵が生かされて出来上っているのです。そこには、その時代時代の好み(意匠・材料・構法・設備など)を取り入れたり、又はき出したりしながら、長い歴史の年輪をそのまゝきざみ込み、日本人に必要な住宅を造り上げて来たのです。
 
戦後、日本に西欧文化が急速に流れ込むと同時に、日本人の生活にも大きな変化を来し、日本の住宅が大きく変りました。
それを一言で申せば洋風化されたということでしょう。そこで、我々の家のどこが洋風で、どこが洋風なのかということを、見極めておくことにも意味があると思います。
 
[床] 和風と洋風の違いを一言で申すとすれば、日本の生活は靴をぬいだ生活であり、彼等の生活は靴をはいたまゝの生活であることにつきます。そして靴をぬぐ生活が、和風住宅の特徴の源ともなっているのです。たとえ昨今の大きな洋風化の流れの中であっても、靴をぬぐことだけは変えられない大事なものなのです。それは日本人は、心の安らぎを得、疲労をいやすのに、靴をぬぐことが是非必要だからです。
靴をぬいだ生活であるために、日本の床は大変清潔なものです。ですから床に直接腰をおろして座ったり、布団を敷いて寝ることも可能なことです。
 
洋風の生活は靴のまゝの生活ですから、家の床には、不潔感があり、汚れたものになりがちです。そこで彼等には、体を支えるための家具が必要欠くべからざるものになっているのです。靴をはいたまゝの生活の椅子を、靴をぬぐ生活に取り入れているのが日本の実情です。純粋な洋風住宅は、日本の風土には育たないのでしょう。
 
[柱と壁] 和風住宅は柱の建築であり、洋風住宅は壁の建築だと申せましょう。
和風の建築は柱で屋根が支えられ、柱と柱との間に、建具をおさめて部屋を造っています。ですから固定した壁の少いのが特徴です。建具が壁をも兼ねながら、自在に役を果たしているのです。むし暑い夏をすごすのには、その建具を開け放って風通しをよくすることが、どんなに効果的かご存知のはずです。開放的なのが和風住宅の特徴でしょう。
 
洋風の建築は、壁で屋根を支えています。そして壁そのものが部屋を囲っているのです。壁が多くて建具が少なく、部屋が全く独立しているのが特徴です。彼等の生活している風土では、この方法が最も住み易いからです。彼等は、日本のように、開け放って風通しを良くする必要がなかったからです。むしろ、冬の寒さや、夏の暑さを室内に入れないことの方が良いのです。
 
昨今、我々の生活にも壁が必要となって来ました。個室にプライバシーを保つとか、収納の場や、設備のための壁が必要となったからです。又、敷地も狭くなって、開放的にも出来なくなってきたからです。
しかし、我々の住まいの壁は、彼等の建築の壁のように厚い壁でなく、日本的な薄い壁であるのが特徴です。

 

降幡廣信

 
 

【住まい ワンポイントシリーズ】家と庭
信濃毎日新聞掲載の過去のコラムです。