民家(五)

 日本人程、古い時代から木と深いかかわりを持ち、木と親しみながら、木の持ち味を理解してきた民族はないと思います。
 

 その中で日本人は、世界に類のない独特の木構造を生み出しました。永久的だと思っていた鉄筋コンクリート造の寿命が、せいぜい五十年かそこそこだろうといわれる中で、腐食しやすい木材による民家が、なぜ二百年も三百年も長持ちし、しかも、その時代時代の生活の器となり得たかというその秘密が、その構造にあったということは、考えさせられることです。
 

 その構造は、木材を外気にふれさせて使う真壁構造という柱の見せる造りです。これは、生きものである木材を呼吸させ、長もちさせる方法です。
そして、その方法は、木材の構造の美しさと木材の肌の美しさを、そのまま意匠として用い、家の外観と、その内部を日本的に装う大事な役目も果たしているのです。
 

 しかも日本人は、その木材を身近で見、肌でふれながら、どんなにか心に安らぎを覚え慰められてきたか知れないのです。
日本の構造が、日本の住宅をどんなにか長持ちをさせ、どんなにか住む人の生活の要求を満たしてきたか計りしれません。
個々の古民家を診断すると、その生い立ちから、今日に至る百年、二百年という歴史の中で、その時代の生活に合わせるために様々な改造がなされている場面を多く見かけます。増築をするために部材を取り変えたり、柱を抜いて二間続きにするとか、または屋根裏に部屋を設けるとか、その例は様々です。そして、その構造が家を改造し、生活を変えるのに、大変にやりやすい優れた構造であったことに気付きます。
 

 又、あんなに細々とした桂離宮でさえも修理をしながら三百五十年も持ち続ける例でもわかる如く、日本の構造は弱ったところを自由に修理し、又補強することの仕易い優れた構造なのです。
このように優れた日本の構造を、現代に生かしてゆかねばならないと思うのです。

降幡廣信

 
 

【現代の住まいを考える】【005】 民家(五)
信濃毎日新聞掲載のコラムをご覧頂けます。
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