古い民家も生きかえる

 昔から「古屋の造作」と言うことわざがあります。古い家にお金をかけて良くしようとしても、効果がないと言う意味のようです。
 

 特に近年たやすく家を造れる時代になって、古い家に手を掛けることを嫌い、古い家を改善しようとする努力を回避してきたように思えてならないのです。そしてあきらめていた向きもあるように思えます。
だから古い民家は、文化財としての保存か、取壊しかの二者択一を迫られて、多くの立派な民家が取壊されてきたのです。このまゝいけば、結局ごく少数のものが文化財としてのみ生き残れるが、他は総て捨て去られてしまうことになり、しかも、残ったものも生きた住宅としてではなく、死んだ剥製の姿となって残されることになるのです。
 

 たしかに、古く住みにくくなってしまった家を捨て去り、新しく住みやすいものに造変えることは、生活を改善するための一つの解決策には違いありません。
しかし、この方法が唯一最善の方法なのでしょうか。このことを考えた時、他の方法を真剣に考え、他の方法を執拗に探らないまま、最も安易な方法が取られてきたように思えてならないのです。
 

 それは、民家を取壊して建て替えられた現代の住宅に、以前の建物の水準を抜いたものが稀であると思われることからも、深刻に受け止めなければならないと思います。事実、民家を捨て、新しい住宅に住み替えた人々の中に、捨てゝしまった民家の魅力を惜しんで後悔している人達が多くいるのです。
 

 古い民家は人の体に例えれば、ことごとくが老衰か、老齢の病人と等しきものであって、健康体は皆無に等しい、しかしこれらの欠陥を直しながら、若返らせたり健康体にもどすことは不可能なことではないのです。いや、命を全うしたに等しき民家に、新しい生命を甦すことすら可能なのです。その家は、新築の現代風の住宅と比較して機能的にも決して遜色のないものであり、生命力においても勝るとも劣るものではありません。さらに家庭の歴史や日本の文化を肌で味わいながらの生活ができる独特のものなのです。
 

 古い民家を捨てる時代は去って、生き返らす時代になったように思います。

降幡廣信

 
 

【現代の住まいを考える】【003】 古い民家も生きかえる
信濃毎日新聞掲載のコラムをご覧頂けます。
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