漆喰

 いつの季節でも古い民家は自然と美しく調和して、その姿に目を見張らせるものがあります。そしてよくよく見ると、民家の白壁が、どんなにか民家を魅力的にしているかを知ることができます。木造の主屋もそうです。土蔵もそうです。お寺でもお城でも、白壁がどんなにか建物を美しくしているか知れません。
 この白壁は、「しっくい」という壁です。主原料は、消石、灰、ノリ、苆。(下塗りに砂を入れることもあります。)又、ノリの代わりに白土や黄土を入れる「大津みがき壁」、「土佐じっくい」もあります。
 
 しっくい壁の特徴は、古くなっても魅力を失わないことです。むしろ建物が古くなり黒くなることによって、白壁の美しさが際立つところにあるのです。これは耐久力にも優れていることから出る美しさなのでしょう。新しい白木の家のしっくい塗りよりは、年月を経て黒く色の変わった木材との対比に、その美しさが発揮されるのです。その点、土蔵は壁に黒い瓦を用いたり、窓や出入り口に黒色の装飾を施して、最初から白壁の美を効果的に表現していることがわかります。
 
 しっくい壁を知る上で「モルタル」との比較をしてみましょう。
 「モルタル」が、最近の住宅の外壁には、最も多く使われているのは防火的であり、技術的、価格的に使い易い材料だからでしょう。しかし、①モルタル壁は、いくら丁寧に塗っても、そのまま仕上げにはむかないことです。所詮下塗りで、その上に何か貼るか塗って、モルタルの欠点を補って閑静しなければならないのです。②土やしっくいのように、何度もコテをあてて塗りこむことには適していない材料です。固まる途中で外力を加えることによって、むしろ効果が半減することになるのです。
ここに、モルタル壁のひびが入ったり落ちたりの原因があるとされています。
 しかし、しっくいの場合は、①塗ったそのままが仕上げとなります。②コテで塗りこむことによって、ますます緻密に顔が映るかのよう②なめらかに、そして美しく仕上がるのです。
 ここに、モルタル壁と「しっくい壁」の違いがあることがわかります。
 
 長い歴史と伝統の中で、耐久力と美とを備えた「しっくい」を見直す時がきていると思います。

降幡廣信

 
 

【現代の住まいを考える】【010】 漆喰
信濃毎日新聞掲載のコラムをご覧頂けます。
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