日本人は、日本の建築が長い年月の間に蓄積して来た様々な知恵を、少し粗末にしすぎていると思われます。それは、日本人が豊富にある水の有難さを感じていないのとも、似ているのでしょう。そして、豊富で、日本人の生活と深いかかわりをもった木材に、特にそのことを感じます。
火災に弱い順木造和風建築の火災で、死傷者が出なかったのに、鉄筋コンクリートの耐火建築である筈のホテルの火災では、三十人以上の死者が出ているところが何件もあったり、木製建具の断熱性の良さに気付かなかったために、昨今の金属サッシによる結露になやまされているところが多いというのも、その例です。木材は、鉄やコンクリート、石やレンガより長持ちがしないと思っていた人は多かった筈です。しかし、半永久的だと思っていた鉄筋コンクリートのアパートが様々な問題をおこし、意外に短命であることが実証されている中で、木材の寿命はきわ立ってみえます。
耐久力だけではありません。強度についてもそれはいえます。材料の強度を比較するのに、重量当たりの強さで比較してみると、木のうちでも弱い筈の杉でさえ、引っ張り強度では鋼の役四倍、圧縮強度ではコンクリートの五倍もあるのです。これは同じ強さの木は、鉄の四分の一の重量で足り、コンクリートの五分の一で十分だと言うことです。地震の力は、構造物の重さに比例して強くかかるため、軽い木材による建築は、地震国日本にはもってこいの建築だったのです。
日本の梁の使い方にも様々な工夫がみられます。木材は縦には力がある割に、横からの力には弱い欠点があります。それをおぎなうのに、斜面に生えた木のアテという性質を梁に利用して強い梁にして屋根の重量を受けているのです。釘梁もその例です。雪国に育った根元の大きく曲がった木材の、大きな湾曲を利用した針です。釘梁の背で上屋の荷重を受け、梁尻で下屋に伝えるという構造です。
これらに日本人の木との深いかかわりの中から考え出された貴い知恵と、温かい木への思いやりを見る思いがします。
降幡廣信
【現代の住まいを考える】【008】 釿梁(ちょうなばり)
信濃毎日新聞掲載のコラムをご覧頂けます。
コチラの記事は過去のものです。