まだまだ暑い日が続きますが、秋の気配が日に日に強くなっている信州より過去のコラムをお届けします。
最近の住宅が洋風化する中で、家の中のドアーが一般的になりました。しかし最近生活は洋風を好んでいても、その建具にはドアーを嫌って、日本風の引戸を希望なさる方が大勢おられます。その方々は、現在又は過去においてドアーの生活を体験しながら、昔からの日本の引戸を見直した方々のようです。
たしかに、引戸というのは、日本の住宅を特徴づけているものゝ一つに違いありません。これは、日本の風土の中から日本人が発明したものだからです。
日本建築は、古くは中国から、そして最近は西欧からその影響を受けておりますため建具も中国や西欧の影響を受けざるを得なかったのでしょう。それは明治の上げ下げ窓をのぞけば、ことごとく開き戸だったのです。ですから日本最古の法隆寺を見ても、又当時の貴族住宅であった伝法堂を見ても中国風のドアーが用いられているのです。
今日、生活が洋風化しても、又建物が構想になっても、そして、材料が木から金属に変っても、日本の外部の建具は依然として引き違い戸が主流です。このことを考えれば、日本人の発明した引違い戸は建具の傑作と申せましょう。
その特徴をドアーと比較してみると引き戸は、
①開け立てするのに場所をとらない。
②軽く出来ている。
③取りはずしが容易である。等ですが、これはどなたも納得できることだと思います。
それに加えて、④日本の引き戸は、あけ放っておくのに好都合であると云うことです。
日本は夏大変むし暑いために、建具をあけ放ち、開放的にして風通しをよくした生活が必要でありました。こういう中で考えられて生れて来たのが引戸だったのです。一方ドアーは閉め切った時と違って、開け放たれたまゝの時格好のつかないところがあるのです。その原因は、ドアーを生んだ国の国情から、外気や外敵を遮断しようという考えが生かされているからでしょう。ですから、閉ざされた時が最も自然なのです。
それにひき変えて、日本の引き戸は開け放たれていても決して、美をそこねたり、又不自然でないところがあるのです。これが日本の住宅にとって、最大の特徴なのです。
降幡廣信
【住まい再考】
信濃毎日新聞掲載の過去のコラムです。