日本伝統の和風の生活様式の中へ、洋風が取り入れられたのは応接室がはじめてでした。明治の文明開化と共に洋服を着るようになると、そうした客のための、洋風の接客の場が必要になって登場したのでしょう。当時の人にとっても、服の膝が気になる座式よりは、椅子式の洋室の方がお客を通しやすかったことでしょうからうなづけることです。
そんな応接室が、やがて文化住宅のシンボルであるかのように、日本の住宅の玄関脇に構えた時代もありました。しかし、それは家族の日常生活とは無関係で、来客の時意外は眠っていたり、物置をも兼ねることすらあったのです。
昨今は応接室も見直されてきたようです。来客のため、私生活を犠牲にしてまで接客の場を設けることはどうかと思いますが、来客を手厚くもてなす風習は日本人の美風でもあり、家の規模と、生活方法に合わせた接客空間はあってもよいと思います。それは、応接室が休養のための家族生活を乱さずにすむことや、生活にゆとりを盛りこむことにとうぜんなる筈ですから。
しかし、昔にくらべ生活が非常に複雑化し、夫の来客以上に、妻や子供の来客が多くなっている中で、夫や妻や子供それぞれの来客であっても、家族ぐるみで共々参加して歓迎することによって、特別な接客空間を必要としないという家庭もあってよいのです。
位置は、玄関になるべく近いところ。広さは最低六畳、家族の動くスペースを考えると八畳は必要でしょう。室内の仕上げは談話のため吸音性の高いものが使われます。内部デザインは、和・洋どちらでもよろしいのです。とりわけ広く、豪華で高級でなくてもよいのです。要は、例え狭く、簡素であったとしても、気持ちの良い部屋でさえあれば来客を温く迎えられ、日常生活においても、家族が有効に使える部屋になるのです。
降幡廣信
【住まい ワンポイントシリーズ】【04】 応接室
信濃毎日新聞掲載の過去のコラムです。