玄関

我々が日常何気なく利用している日本の「玄関」は、欧米の「エントランス」または「フロント」に当るところです。しかし、その内容には大きなへだたりのあることを知っているべきでしょう。
 
日本人の生活と彼等の生活の違いを一口でいえば、彼らの生活は靴をぬいだ生活であるということです。そして、この生活の違いは、今より時代が進んだとしても変ることはないはずです。
さらにこの生活の違いが、和洋の住宅の総ての違いの源になっているのです。靴をぬがせて内と外の生活をはっきりと区別させている日本の玄関と、彼等のそれとは、内容に、その構成に大きな違いがあって当然のことでありましょう。
  
玄関は、内の家族を気持ちよく送り出し、来客を温かく迎える内と外との接点に当ります。特に日本の玄関は、外の道路の延長と内部の床の延長との接点に当り、互いに性格の違った土間と床によって構成され、そこに大きな段差を生じていることには深い意味もあるのです。そしてそこには、下駄箱、傘立て、スリッパ入れ等の機能を盛り込みながら、秩序ある空間が構成されてきたのです。
「玄関」は、家の眼だと申されます。人の心の中の様子が眼からうかがえるように、その家の建築の内容や内側の生活の様子が、玄関からすべてうかがい知れるからなのです。
 
玄関とポーチ
玄関にはもう一つ外部に「ポーチ」という外部空間が必要になっています。実用的には、玄関へ入るまでの間、待ちながら気持ちの準備や身支度を整える場であります。又、玄関から外へ向う時の気持ちなどを整える場所でもあるのです。このポーチと玄関とが一体となり、互いに関係し合っていることに留意すべきです。
 
玄関とポーチは、狭すぎず広すぎず、その家に調和した広さが必要です。
そして簡素な中に清潔さを持っていることが、日本の玄関にふさわしく感じよく映える玄関といえましょう。

降幡廣信

 
 

【住まい ワンポイントシリーズ】【03】 玄関
信濃毎日新聞掲載の過去のコラムです。